「ホームページで掲載されていた物件を見たいのですが」
僕はネットで見つけた2つの物件の内見依頼を、その不動産会社の営業マンに伝えた。
すぐに、内見の調整をしてくれるという。
しかも、本命の物件は、入居されている人がいるので、スケジュールの調整に少し時間がかかるという。
数日後、不動産会社の営業マンから連絡が入った。
「大丈夫です!今週末の土曜日なら中を見せてくれるそうです。」
いよいよ人生で初めての購入物件の内見が決まった!
ただ、どうせ行くなら妻も一緒に行ってほしい。
「投資用マンションの内見に行くんだけど、一緒に行かないか」
僕はお腹の大きな妻に聞いてみた。
妻はあまり乗り気な感じではなかったが、一緒に行ってもいいよくらいの温度感だった気がする。
そして、いよいよ内見の土曜日になった。
自宅の賃貸マンションを出発して、電車に乗って大森海岸駅に行った。
正直、一度も降りたことのない駅だった。
資料によると、モノレールの駅からも行けるようだが、どちらにしても駅からは徒歩で15分くらいはかかるような立地だ。
当時はスマホもないので、事前に不動産会社からメールでもらっていた地図を見ながら、お腹の大きな妻と2人で歩いて現地に向かった。
今まで僕はずっと「大森海岸駅」だったと記憶していたが、今調べてみるとおそらくその手前の「立会川駅」から歩いて15分くらいのところだったかもしれない。
おそらく15号(第一京浜)をわたった記憶があるから、てっきり海側に向かった気がしていたが、実は内陸側に歩いていたことになる。
しかも、現在の地図を見るとその記憶がぴったり当てはまる。
記憶というものは曖昧なものだ。
細い道路を妻と2人で歩きながら、ようやく物件に到着すると、不動産会社の営業マンが待っていてくれた。
「どうも、よろしくお願いします。こちらの物件ですね。」
僕はそのマンションを見上げながら言った。
築20年くらいの白っぽいタイル張りの物件で、5階建てくらいのマンションだった。
不動産会社の営業マンの案内で、中に入っていった。
かなり奥行きのあるマンションだ。
薄暗い廊下を歩いていくと、5人乗り程度の小さなエレベーターがあった。
すぐに扉が開き、3人で乗り込んだ。
エレベーターは5階に到着するとガタンっと音を立てて少し揺れた。
昔ながらのエレベーターだった。
そして、奥の方に進んだところで営業マンがチャイムを鳴らした。
中から、若い大学生のような女性が出てきた。
「はい。どうぞ、中をご覧ください」
にっこり笑って、笑顔で迎えてくれた。
今日は学校がお休みなのだろう。
土曜日の午前中ということもあり、洗濯機が動いていた。
部屋は6帖のフローリング。収納がなく、本来収納のはずの3尺幅のクローゼットの中に洗濯機が置かれていた。
ただ、ここのいいところは、眺望と広いベランダだった。
ひな壇のようになっているマンションで、下のフロアの屋根の上が、自分のベランダスペースになっているので、ベランダがとても広いのだ。
「ここは明るくて開放感があっていいね」
僕は言った。
入居者の女性も
「ベランダが広いのがお気に入りなんです」
そう答えた。
僕の頭の中は、すでに購入する前提の頭になっていた。
あまり長居もできないので、入居者の女性にお礼を言って、またエレベーターで1階に降りた。
「いいですね。価格は650万円でしたっけ。少し値引きの余地はありそうですか。」
と聞くと
「正直、この物件のオーナーはギリギリの価格で出されているので、これ以上は厳しいかと・・・」
なるほど。
やはり投資用マンションは、売主が投資家なので、価格はかなりシビアだとは思っていた。
貯金がほとんどなかった僕は、わかりましたと伝えて、不動産会社の営業マンと別れた。
駅までの間に妻と会話をした。
「どうだった?」
と僕が聞くと
「まあ、いいと思うけど買えないでしょ(笑)」
そのとおりだった。
ただ、僕としても何とか購入はしたい。
銀行に言えば貸してくれたりするのだろうか。
当時の僕には、そういった融資についての知識がまったくなかった。
それなのに購入を検討するなんて、、、バカげていた。


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