「もっと早く公開した方が引き継ぎできたのに」
僕は苛立っていた。
なぜなら、部長本人が引き継ぎの時間があまりないと言っていたのに、部署内でオープンにせずにずるずると1日1日が過ぎ去っていくのを見てられないからだ。
それなら、すぐに公開して、引き継ぎの期間を確保してほしいと願っていた。
ただ今になって振り返ると、部長にも部長なりの事情があったのかもしれない。
退職者の発表タイミングは組織全体への影響も大きく、簡単に決められるものではないのだろう。
それでも当時の僕は、少しでも早く引き継ぎを進めたいという気持ちでいっぱいだった。
しかし、現実はそうはならない。
このままだと、また引き継ぎ期間を理由に、最終出社日と退職日程を引き伸ばされるかもしれない。
そんな危機感があった。
このまま、何もせずに待つのは嫌だ。自分でコントロールしたい。
僕は決めた。
「先に人事に退職届を提出しよう。」
早速、社内のワークフロー(ネットで申請するシステム)で、退職届を記入して提出した。
もちろん、僕が考えている日程を書いた。
あいにく、GW前ということもあり、部長も有給休暇をとっていたので反応がない。
しかし、4月後半になり、部長も含む上層部が次々と承認してくれた。
2日程度で、全員承認が終わったのだ。
「これで日程は確定だ!」
僕は安心した。
あとは、引き継ぎ期間をどれくらい確保できるかという問題だけが残るが、そこは上司の裁量になる。
僕は、その時点でやるべきことはやった。
それからは、あっという間にGWに突入し、あっという間に5月になった。
その間に、中途採用者も1人入ってきた。
これで、4月に他部署から異動してきた後輩と、中途採用者への引き継ぎが必要になったのだ。
「もう、できる範囲で引き継ぎをするしかない。」
僕は腹をくくった。
しかし、GWが明けてもなかなか部長が僕の退職をオープンにしない。
また土日を迎えた。
「いったい、上司はどう考えているのだろう。」
僕は、休日に考えたが、自分ではどうなるものではない。待つしか無いのだ。
そして、翌週の5月11日の月曜日。
その時がやってきた。
毎週月曜日は、部署のミーティングが開催されている。
そのミーティングの最後で部長が口を開いた。
「そういえば、みんな知っていると思うが・・・」
と言って僕の退職のことをメンバーに伝えられ、激震が走った。
「えっ、うそでしょ?」
当然、僕の退職の話は誰も知らない。メンバーからしたら寝耳に水だったはずだ。
僕は、簡単に退職について挨拶をし、最終出社日についても告げた。
「引き継ぎの時間がないじゃん」
メンバーが言うのも無理はない。なぜなら、最終出社日の5月25日まで、実質10日しかないからだ。
しかし、僕は4月17日に退職のことは伝えていた。
その時、すぐにオープンにしていたら、かなり状況は違っていたに違いない。
時間は戻せない。
「できる限り、迷惑をかけないような引き継ぎをする」
僕はメンバーをなだめた。
それしかできなかった。


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