「草が伸び放題でかなり荒れているな」
僕は、先週購入した築古戸建ての前で、しばらく無言で立ち尽くしていた。
約3ヶ月程度、人が住んでいないと、庭は一気に荒れ放題になっているものだ。
本来なら、家の中のリフォームからするべきなのだろうが、どうしても外観が気になってしまう。
おそらく、ここを通る人たちも、この空き家をみてそう思っているに違いない。
まずは、空き家感を払拭するために、庭の草とりからスタートすることにした。
約45坪の家の庭は、意外と広い。
まずは玄関ドアまでのアプローチの左側のスペースから取り掛かった。
そこは、まだ比較的低い丈の草が生えていて、たまに50センチを超える背の高い草がある程度。
手始めということもあり、1時間程度かけて草を抜いた。
すると、これまで草で覆われて見えなかったところに、丸い花壇があるのが分かった。
花壇とはいっても、綺麗にレンガが積まれたようなものではなく、無骨なモルタルでつくったようなものだ。
それでも、ここに花を植えるだけでも、空き家感が一気に無くなると思った。
僕は近くのホームセンターに行き、ペチュニアという黄色い花の苗を4株と、園芸用の土を買ってきた。
花壇に買ってきた土を2袋ほど入れて、黄色い花が咲いているペチュニアを4株植えてみた。
「うん、いい!」
道路からも黄色い花が見えて、一気に華やぐ。
花というものは、そんな力があるものなのだ。
その時、隣の家のご主人が外に出てくる気配を感じた。
庭の手入れをしているようだった。
僕は、事前に購入していたティッシュペーパーのセットを持って、挨拶に訪問した。
「こんにちは」
年齢は70代くらいの小太りのご主人だった。
僕は、隣の家を購入して、リフォームして貸し出すことを説明して挨拶した。
すると、ご主人が
「ああ、となりが空き家にならなくてよかったよ」
と言って感謝されたのだ。
自分が空き家を購入して、初めて感謝された瞬間だった。
「なんだか嬉しい!」
そんな気持ちになった。
僕としては、ただ家を買って、リフォームして、貸し出して収益を出すことしか考えていなかった。
近所の人に感謝されるなんて、思ってもみなかった。
これを――
社会貢献というのか。
確かに、今までに読んできた不動産賃貸に関する書籍でも、社会貢献になるという事業の特徴については読んだことがあったのだが、こうして実際に喜ばれると、社会貢献という言葉が、初めて自分ごととして腑に落ちた。
「自分はいいことをしているのかもしれない」
そう思えた。
僕は、そのまま反対側の隣の家にも挨拶に行った。
「人に貸し出すんですか。がんばってくださいね。」
そう言われた。
そういったご主人は少し若い60代後半くらいの男性だった。
そのご主人からみたら、40代だった僕は若造だったのかもしれない。
それでも、やはり空き家にならなくてよかったという気持ちが伝わってきた。
自分がサラリーマン以外の事業をして、他人から喜ばれるという初めての経験。
なんだか、僕も嬉しくなった。
そして、また庭の草取りを再開することにした。
今度は、玄関までのアプローチの右側。もっとも荒れているエリアだ。
庭の奥側の方から草をとっていったのだが、これがなかなか苦戦して大変だった。
そのエリアには、家の屋根まで届きそうな大きな柿の木が生えていた。
その柿の実がたくさん落ちていて、アリも多い。
正直、あまり触りたくなかったのだが、仕方がない。
僕は、使い捨てのビニール手袋をして、1個1個、熟れて熟した柿の実をゴミ袋に入れていった。
そして、もう1つ大変だったのが、バラの木が植わっていたことだ。
僕はバラの木を触るのが初めてだったのだが、話に聞いていた通りバラにはトゲがあった。
しかも、かなり強烈なトゲだった。
「これカットしよう」
僕は家から持参してきた強力な園芸用のハサミで、バラの木を根元付近でカットしていった。
「よし。これでOK!」
その時だった。
左足の甲に、今まで感じたことのない鋭い痛みが走った。
「…え?」
足元を見ると、鉄筋のような太さ1センチほどの金属の棒が刺さっていて、血が出ていた。
「ヤバい!」
正直焦った。結構な量の血がどくどく流れていた。


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